このエッセイコーナーはe-Towns発行人、北風秀明が日頃抱いている庄内への思いをエッセイにしたもののアーカイブスです。
(vol.13 e-Towns 2013年9月号掲載)
先日、高校の時に世話になった先生の退職祝いに出席した。先生は3年間担任でそして3年間所属した野球部の監督だった。僕は小学校の野球のスポ少を途中で辞めてしまい、そのことで一人ずっと悔しい思いをしてきた。中学の時に頑張った陸上部に入るという選択もあったが、どこかで自分を挽回したいと迷わず硬式野球部に入部した。
先生は指導者として酒田東高等学校を甲子園に導いたこともあるバリバリの監督だった。練習は厳しく長く、土日も休まず、修学旅行の時でさえ毎朝近くのグランドで練習したほどだった。熱が照り返す土の匂い、汗だくになって隣を走るチームメイトの息づかい、打球がバットの芯に当たってボールが一瞬のうちに青空に向かって小さく飛んで行く光景など、もう25年も前のことなのに、今でも鮮明に思い出すことができる。
今、仕事やプライベートで様々なことが起きても、肉体的精神的に諦めずに頑張ることができているのは、当時の野球部での経験があったからだと会の席でしみじみ思った。何か一つのことに懸命に打ち込んで、自分はそれをやり遂げたんだと思える体験は、人生の中で自分を支える大きな力になる。しかしそれはこんな風に後でから分かるものだ。
教職員のクラブ活動でのサービス残業問題が言われて久しい。今家族を持つ者として、あれだけの時間を指導に費やし、当時の先生がどれほどのものを犠牲にしなければならなかったか想像でき、本当に心から感謝の気持ちが沸いて来た。先生は僕のような一人の高校生を、自分が野球の指導にひたむきに取り組む姿を見せることで影響を与え、変えてくれた。こういう恩師と出会えたことは本当に貴重なことだ。
今回読者の方からのお便りに、庄内は子育てに最高の地域ですというものがあった。確かにここの景色と自然は、人にとって大切な瞬間を素晴らしく演出してくれ、その記憶をいつまでも鮮明に彩ってくれる。
会に出席した同期の仲間や先輩後輩の多くはこの地を離れて素晴らしい活躍をしていた。しかし一方で、仕事がないからと若者が自らを育んだ地域を離れなければならない状況は何とかならないものかなあと思った。