このエッセイコーナーはe-Towns発行人、北風秀明が日頃抱いている庄内への思いをエッセイにしたもののアーカイブです。
(vol.6 e-Towns 2013年1月号 掲載)
庄内野菜を作っている農家さんを訪問する機会をいただいた。以前から庄内にはいい仕事をして素晴らしい野菜を生産している農家さんがたくさんいると聞いていて興味があったが、先日青果卸をしている長島さんに誘ってもらい念願がかなった。12月に入って雪が積もった日だったが、手間ひまかけておいしい野菜を作ろうとしている真面目な人の姿にとてもあたたかい気持ちになった。
長島さんは庄内のホンモノを通して庄内の魅力を発信するため、やまがた庄内産直出前便を運営して神奈川の湘南モールフィルで定期的に産直を開いている。東京出身だが、庄内の魅力にこれからの可能性を感じている1人だ。「庄内はすごいよ。一生懸命で真面目な人多いもんね」と長島さんはよく言う。
今回は平田の赤ねぎ、三川町の原木しいたけ、西郷地区の御立派ほうれん草の生産現場を見せてもらった。みなさん忙しい中手を止めて生産方法などを丁寧に話してくれた。赤ねぎが傷付かないように泥を落とす機械や、原木しいたけが出来る姿など、どの現場も僕にとっては驚きだった。
ハウスで作る御立派ほうれん草は冬の収穫に合わせて遅くに種を蒔く。夏の分は規格に合わせて完全に育つ前に出荷するそうだが、冬は通常の3倍の時間をかけて完熟するまで大きく育てる。葉は大きくなり、一見これがほうれん草?と思うほどだ。寒い中で育つため、枯れてはならぬと内に糖分を蓄えて甘くなるのだそうだ。「食べてみていいですか?」と頼むと「いいですよ。ぜひ」とのことなので一ついただいた。口の中にふわっと甘さが広がる。シャキっとした歯ごたえがほうれん草のイメージをくつがえす。青臭さもない。
衝撃の味に、赤ねぎも原木しいたけもほうれん草も、もっと楽な方法があるのになぜ?という僕の疑問はふっとんだ。
昔、庄内人の気風は沈潜の風と言われた。日頃は静かに地道に力を養い、いざという時にはそれを大いに発揮するという意味だが、『花よりも根を養う』ことに重きを置くことが庄内に住む人々の生き方だった。きっと現代の私たちにも沈潜の風ソウルが息づいているのだと、御立派ほうれん草をいただきながら思った。