このエッセイコーナーはe-Towns発行人、北風秀明が日頃抱いている庄内への思いをエッセイにしたもののアーカイブスです。
(vol.88 e-Towns 2020年5月号掲載)
桜の季節に、チェーホフの「桜の園」を読み返しました。30年振りか、それくらいに。19世紀末、ロシアのある貴族が時代の変化と共に没落していく姿を描いた世界文学史に残る名作です。なぜ桜の季節を選んだかと言うと、物語全体を通して、広大な庭園に咲き誇る桜の姿が印象的なので、物語をより身近に感じられるのではないかと思ったからです。この考えは大正解でした。僕は一週間、どっぷりとチェーホフに浸かりました。
持っている権力、お金の使い方、裕福な生活を変えられない人々と、それらをきっぱりと諦めて新しい未来に希望を見つけて歩き出す若者。その物語は今の世の中にそのまま投影され、僕の中で膨らみ、一つの決心のようなものを抱かせてくれました。
新型コロナウィルスの感染拡大が世界に与えている影響は果てしなく大きいものです。学校、仕事、生活、お金、会社、行政、そして未来も!私たちがこれまで支えにし、すがり、疑いもしなかった全ての事柄が静かに音もなく止まり、崩れてしまうかもしれないという不安が襲っています。
しかし、そんな中でも様々な工夫が実を結び、テイクアウトサービス、デリバリーサービス、インターネットを通じたテレワークなど、次世代を予感させるような動きが出てきています。SNSでそういう元気な投稿を見ると、勇気が湧いてきます。
遠くない未来にこの事態が終息し普通の生活に戻った時に、実は私たちは新しい時代を切り開いているのかもしれません。それは、時代の変わり目で未来への希望が見えるといういう意味で「桜の園」と通じます。
e-Townsは、来たる新しい時代にも庄内の皆様に貢献できるように、思い切ったリニューアルをします。そのため次号6月号を休刊し、準備期間とさせていただきます。楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、7月号をぜひご期待下さい。そしてそれまで、皆様どうかご自愛下さい。